「年収の壁」問題の行方

昨年から政治課題となっているいわゆる「年収の壁」問題の行方が注目されています。


昨年9月に国民民主党が公約として掲げたのが、昨今の物価上昇や就業調整の問題への対応として、長年据え置かれている基礎控除額を最低賃金の上昇率を基に見直し、所得税の課税最低限を103万円から178万円に引き上げるという具体案でした。


その後、紆余曲折を経て昨年12月に自民、公明及び国民民主の3党間で課税最低限を103万円から178万円を目指して引き上げる旨の合意がなされましたが、令和7年度税制改正では基礎控除額の算定根拠について最低賃金の上昇率か、物価上昇率かといった議論の末、課税最低限の引き上げは160万円に留まりました。
また、基礎控除額の引き上げ分の一部を租税特別措置法で上乗せ特例扱いするといったテクニカルな算定方法としたため、以下のように複雑で分かり難い点も見受けられ、上記の3党合意からは後退した内容となりました(基礎控除額の改正内容についてはこちらを参照)。


 〇基礎控除額が所得金額に応じて変動する。
 〇基礎控除額がいったんは増えるものの、一定の所得金額を超えると令和9年分以降は上乗せ特例分が減額される。
 〇課税最低限は160万円だが、扶養親族等の所得要件は123万円以下というダブルスタンダードが生じた。


参議院選挙やその後の政治空白の期間もあり、ようやく今年10月に連立政権となった自民党と日本維新の会の間で、改めて所得税の基礎控除などをインフレの進展に応じて見直すことが合意されたものの、結局、今年の年末調整に間に合うように新たな改正事項を織り込むことはできませんでした。


昨今の人手不足の状況下であるにもかかわらずパートやアルバイト勤務の就業調整が行われるのは、課税最低限もさることながら、扶養親族等の所得要件が足かせとなっているのが実際であり、現行のままでは就業調整の問題への対応としては不十分であるように思われます。
また、同時に改正された給与所得控除額の改定は給与収入が190万円以下の者に限られ、給与収入190万円超の者の恩恵は実質、基礎控除額10万円の増額のみに留まっており、中間層への対応も含めた制度設計が求められます。
2025.11.4